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福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)941号 判決

原告

大友貢

被告

九州ビクターローン株式会社

代理人

山崎信義

主文

一、債権者原告外五名債務者堀田八州輝間の当庁昭和四五年(リ)第二四号配当手続事件につき当裁判所が作成し同年六月二五日配当期日に提示した配当表のうち、その全額を被告に配当すべきものとした配当金A金一〇万七、六三二円につき、その配当額を被告に対し金七万五、〇〇〇円(債権種類求償金)、原告に対し金三万二、六三二円(債権種類貸金)と更正する。

二、訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

原告は「主文第一項掲記の本件配当表のうち、その全額を被告に配当すべきものとした配当金A金一〇万七、六三二円に関する部分を取消し、さらに適当の配当表の作成を求める。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として

一、原告は、訴外堀田八州輝に対し有する熊本法務局所属公証人土肥義雄作成第三五三一五号公証書に基く貸付金残元金二〇万円及びこれに対する昭和四一年二月一日以降昭和四五年六月二五日まで年三割六分の割合による遅延損害金の債権を執行債権として、昭和四五年四月四日福岡地方裁判所執行官に対し、堀田所有の有体動産に対する強制執行の申立をなした。同年同月一三日差押がなされた。

二、右強制執行事件において、被告は昭和四五年四月二七日、堀田に対しビクターカラーテレビC―八〇九U一台の売掛代金一二万円の債権を有するとして、執行動産中の右物件「カラーテレビ受像機ビクター一九」の競売売得金から右債権の優先配当を求める旨の配当要求をした。

三、右強制執行の結果、該カラーテレビの売得金は金一一万六、〇〇〇円であつたが、原告より被告の優先配当要求に対し異議を述べ、配当協議ができなかつたため、執行官より同裁判所にその旨の事情の届出がなされ、昭和四五年(リ)第二四号配当手続が開始された。

四、右配当手続事件において配当裁判所により作成され同年六月二五日の配当期日に提示された配当表によれば、右売得金一一万六、〇〇〇円より執行費用金八、三六八円を控除した配当金Aの全額を被告に配当するものと定められている。

そこで、右期日に原告は被告に対する右配当につき異議の申立をなした。

五、原告の主張する異議の理由は次のとおりである。

(イ)  本件配当表において被告の優先配当を認めた債権に係る本件テレビ売買代金は、堀田と被告との間の「ビクターローン購入契約」により、堀田が被告の連帯保証を得て訴外株式会社福岡銀行(荒江支店)より貸付けを受けた借入金により全額被告に対し支払済であり、右代金債権はすでに消滅している。

(ロ)  仮りに被告の配当要求債権が右借入金に対する保証債務に関連する求償金債権であるならば、右債権担保のため被告が本件テレビにつき取得した譲渡担保の権利は、これをもつて善意の第三者たる原告に対抗しえないものであり、また、もともと譲渡担保の権利自体は配当手続において他の債権者に優先して弁済を受ける効力を有するものではないから被告に優先配当をなすべき理由はない。

(ハ)  仮りに被告に優先権があるとしても、被告の求償金債権額は、本件強制執行外で一部弁済がなされた結果、金七万五、〇〇〇円となつたものであるから、右金額を超える配当はなさるべきではない。

と述べ、被告の答弁第三項の事実を認めた。

被告訟訴代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、請求原因第一ないし四項の各事実、第五項(イ)の事実及び同項(ハ)の事実は、いずれも認める。

二、請求原因第五項(ロ)については、被告の配当要求債権は保証に関する求償債権であり、優先権は譲渡担保によるものであるが原告の法律上の主張は争う。

三、被告が堀田に対し本件カラーテレビ受像機を売渡すにつき、昭和四四年六月三〇日同人との間に締結したビクターローン購入契約に基き、堀田より被告に支払うべき右売買代金の支払に充てるため、堀田が訴外株式会社福岡銀行荒江支店より金一八万二、〇〇〇円を借受けるについて、被告は堀田の委託により連帯保証をなし、堀田は、被告の右連帯保証による求償債権を担保するため、同日被告に対し物件を譲渡担保として差入れたものであり、右契約においては、被告は右連帯保証による代位弁済前においても、被告において求償債権保全上必要と認めるときは、被告が出捐すべき金額及び費用の償還を請求し得るものとし、右譲渡担保の権利の実行について、被告が本件物件を堀田から引き上げ、次の算式(ただし、一月未満の使用月数は一月と計算)

により本件物件の価額を算定して、その価額を、求償債権額より差引き、その過不足金額を授受することにより清算する約束である。

ところが、右物件が本件競売に付され、その所有権が第三者に移転したので、被告は求償債権保全のため必要と認めてこれを行使すべく、優先配当の申立をなし、配当手続における計算書提出期間内に、右債権及び優先権の内容を明らかにした計算書を配当裁判所に提出したのである。

と述べた。

〈証拠略〉

理由

一原告主張の請求原因第一ないし四項の各事実、同第五項(イ)及び(ハ)の各事実、ならびに被告主張の答弁第三項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二右事実によれば、被告が当初本件優先配当申立に当り債務者堀田に対し有するとして配当を求めた債権は、原告より堀田に対し、売渡した本件競売物件(カラーテレビ受像機)の売買残代金一二万円の債権であるが、右代金債権自体は、右売買について締結された契約(ビクターローン購入契約)に基き堀田が福岡銀行より借入れた購入資金により、全額弁済されてすでに消滅しているのであるから、配当を受けるべくもなく、本件配当表において本件配当金を全額右債権に配当するものと記載したのは明らかに誤りである。

三しかし、被告は、右購入契約に基き、堀田の同銀行からの右購入資金借入れに当り、堀田のため連帯保証をなしたもので、右購入契約においては、「被告において求償権保全上必要と認めるとき」は、「被告が出捐すべき金額及び費用」につき求償権の事前行使をなしうるものとの合意がなされ、かつ、堀田より被告に対し、右求償債権を担保するための譲渡担保として、本件競売物件が差入れられていたところ、右物件に対する本件強制執行がなされるに至つたのであるから、被告は右求償権の事前行使として堀田に対し該求償債権の弁済を求め得ることになつたものというべきである。

また、被告は配当手続開始後計算書提出催告期間内に、配当要求債権が右内容の求償債権であることを明示する計算書を配当裁判所に提出したのであるところ、配当手続においては、民訴法二三二条を類推して、配当要求債権者は配当裁判所の定めた催告期限までに提出する計算書により、請求の基礎に変更のない範囲内に限り配当要求債権を変更することが許されるものと解すべきであり、前記代金債権と求償債権とは請求の基礎を同一にするものと認めるのが相当である。

従つて、本件配当表の作成に当つては、右求償債権をもつて、被告の配当求償債権となすべきものであり、右債権の現在金額が、金七万五、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

四本件競売物件たるカラーテレビ受像機が債務者堀田から被告に対し、前記求償債権を担保するため、本件差押前に譲渡担保として差入れられたものであることは前示のとおりであるところ、〈証拠〉によると、被告と堀田との間において、前記購入契約により、該物件は、被告より堀田に売渡されると同時に、堀田より被告に譲渡担保としての差入れがなされ、次いで同時に被告より堀田に対し、無償で使用させるべく約束されて、最終的に被告より堀田に引渡されたものであり、従つて、右譲渡担保差入れに当り、該物件は、堀田より当時現にこれを所持していた被告に対し意思表示による占有の譲渡の方法により引渡(いわゆる簡易引渡)がなされたものと認めることができる。

そして、動産譲渡担保による所有権取得は目的動産の引渡によりこれを第三者に対抗し得るものであるから、被告は前記引渡により本件競売物件について第三者に対抗し得る譲渡担保の権利を取得したものというべきである。

五そこで、被告の有する右譲渡担保付債権の、担保物たる本件競売物件の売得金に対する優先権の有無につき判断する。

当事者間に争いのない被告主張の譲渡担保契約の内容及び前掲〈証拠〉を綜合すると、譲渡担保権者たる被告と担保設定者たる堀田との間になされた本件譲渡担保に関する合意の趣旨は、被担保債務の不履行のときは、被告は本件物件を「引き上げる」ことができ、右物件の「引き上げ」がなされた場合被告主張の算式により、その価額を算定し、これにより算出された譲渡担保物件価額を被担保債務額から控除した過不足金額を別途授受することにより清算するというものであることが認められるから、本件譲渡担保は、いわゆる清算型に属するものということができるとともに、本件物件の所有権の帰属については、右合意の趣旨によると、右物件「引き上げ」即ち被告の担保権実行のためにする直接占有の回収取得により、その時点において直ちに、所有権は確定的に被告に移転するものと認めるのが相当である。

思うに、譲渡担保は、債権担保目的を実現するため、目的物件の所有権移転の法形式を履むものであるから、その担保権実行の方法については、その実行段階における法律関係を前提として、その目的と当事者間の合意の趣旨に照し、合理的に決すべきであり、実行の過程において譲渡担保物件の所有権が確定的に債権者に移転するまでは何時でも債務の弁済により当該担保権を消滅させることができるものであるから、その間においては、債権者は、他の債権者に対する関係においても、優先弁済の権利を主張し得るにとどまり、所有権を主張して第三者異議の訴により該物件に対する強制執行の排除を求めることは許されず、優先弁済の訴を提起し、または優先配当要求の申立により配当手続において、優先権を主張すべきものと解するのが相当である。

そうすると、被告において譲渡担保の目的動産たる本件物件につき担保権実行のためにする直接占有の取得をなしたことの主張立証がなく、かえつて弁論の全趣旨により、右占有取得前に本件物件につき本件強制執行の差押えがなされたため、本件物件の所有権の被告に対する確定的な移転がなされるには至らなかつたものと認められる本件においては、本件強制執行における本件競売物件の売得金につき、配当要求償債権たる被告は譲渡担保の権利に基き、前示求償債権に対する優先配当を求めることができるものというべきである。

六そうすれば、本件配当金一〇万七、六三二円については、そのうち先ず優先権を有する被告の前示求償金債権金七万五、〇〇〇円全額に配当し、残額三万二、六三二円を原告の貸金債権に配当すべく、本件配当表中の右配当金に関する配当額を右のとおり更正することとし、民訴法九二条に則り、主文のとおり判決する。(渡辺惺)

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